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No.7 リベラルアーツ学群 鷹木恵子先生(専門:文化人類学)
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チュニジア民主化革命の展開と
その諸課題をめぐる人類学的研究

2014年度~2016年度/研究課題番号:26370959

[2016年11月30日掲載]
2011年1月14日のチュニジア革命から始まった民主化のうねりは、中東諸国の多くへと波及した。しかし、その後の展開は、当初、「アラブの春」と呼んで期待したようにはならず、中東情勢は目下、混迷の度を深めている。その起点となったチュニジア革命と民主化の意義を明らかにする。

混迷の中東情勢の起点ともなったチュニジア革命

革命の発端となった町、シディ・ブーズィードにて

チュニジア革命は、長く同国で人類学的調査をしてきた私にとっても、全く予期できない出来事だった。さらに予測ができなかったのは、その民主化のうねりが中東諸国のほとんどへと波及したこと。エジプト・リビア・イエメンでは独裁政権を終焉させたが、その後エジプトでは、自由選挙で成立したムルシー政権に対する軍事クーデターや、リビアやイエメンでの武力抗争の激化、シリアでのアサド政権と反政府諸勢力との内戦化、そして権力の空白地帯に「イスラム国」という凶暴集団の登場と、混迷を極めている。

中東諸国の中で初めて民主化移行を成功させた国チュニジア

こうした中東情勢については、日本でも特にエジプト革命やシリア情勢、そして「イスラム国」に関しては多くの著書・論文がみられるが、その起点となった「チュニジア革命」については、まだわずかな研究しかない。チュニジアは革命後、紆余曲折を経つつも、国家的危機を市民団体が主導した「国民対話」によって、非暴力的手法で民主化を推進。2014年初頭には新憲法を制定、その秋には国会議員選挙と大統領選挙を実施、そして2015年2月には新政権を発足させ、アラブ諸国で初の民主的国家となった。2015年度にはその仲介役を果たした四つの市民団体「国民対話カルテット」がノーベル平和賞を受賞した。

研究者の使命としての「チュニジア革命と民主化」の実証研究

チュニジア人の家庭にて

チュニジアを研究してきた者として、この大きな出来事の全体像を何とか把握し、紆余曲折も含めその過程を実証的に記録することは重要な使命と感じ、革命の年2011年からほぼ毎年、春と夏の休暇には現地調査を繰り返している。これまで、著書・論文、インターネット記事などの文献研究に加え、現地では、多くの人々からの聞き取り調査を行ってきた。聞き取りは多種多様な分野の男女、研究者の他に、失業中の若者、市民活動家、政党党首、大臣、外交官、弁護士、宗教指導者、軍人、医師、芸術家、農民、タクシー運転手など、許可を得て録音した人々だけでも300人以上に及ぶ。

そして、5年にわたった研究調査の内容を、この度、『チュニジア革命と民主化 ― 人類学的プロセスドキュメンテーションの試み』(明石書店)という著書として出版することができた。

チュニジア革命の意義と目下の課題

「リーダーなき革命」とも呼ばれたチュニジア革命は、ありとあらゆる市民がそこに参加し、デモや団交や論争、対話という平和的手段によって民主化を達成したという点で実に意義深い。ただ、政治的民主化は達成したが、革命後、経済状況は悪化。日本人も犠牲になったバルドー博物館テロ事件などもあり、観光産業も低迷し、目下、治安回復と経済再建が最優先課題となっている。研究の傍ら、調査地の村人が作る民芸品の質の向上と販売促進を兼ねて、現地NGOと連携した民芸品展示会も開催、今夏で7回目を迎えた。自らの研究をいかに実践活動へと結び付けていくか、それは今後も大きな挑戦課題と考えている。