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No.6 リベラルアーツ学群 坪田幸政先生 (専門:気象学、大気環境科学、科学教育)
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私たちの選択や意思決定に依存する、
未来の地球環境

[2016年5月31日掲載]
最近10年間の研究活動は、気象や大気環境をテーマとして、生徒や学生の科学リテラシー育成が中心となっている。具体的なテーマは、天気と天気予報から始まり、地球温暖化や気候変動、そしてその解決策として、再生可能エネルギーへと広がってきている。
今回は、天気予報と気候予報、それらに関する不確実性と未来の地球環境を守るためのヒントを紹介する。

天気予報はなぜ当たらない?

「気象衛星」
2016年3月17日正午
(気象庁ホームページより)

天気予報には当たらない理由がある。まず、将来の予測をするためには、今を知る必要がある。しかし、大気の現状を100%把握することは困難だ。例えば、あなたのいる場所、あるいは太平洋上の天気や気温、風を完全に把握することができないことは明らかだろう。
また、天気についてまだよくわかっていないことがある。例えば、気象衛星ひまわりの画像を見てほしい。赤道付近にたくさんの小さな雲が発生している。これらの中のどの雲が台風まで発達するかを、今の気象学では特定できない。
そして、天気や気象を方程式に表現できたとしても、その方程式を解くことは容易ではない。天気予報では、コンピュータを利用して、近似的に解いているに過ぎない。これらの理由から、天気予報には限界があり、確率予報にならざるを得ないのである。

地球温暖化や気候変動は予想できるのか?

天気は経験するもの、
気候は期待するもの

天気予報に限界があるとすると、地球温暖化を含めた今世紀末の気候変動がなぜ予測できるのだろう?その答えは、天気と気候の違いで説明される。天気とは私たちが実際に体験する気象であり、時事刻々と変化している。天気予報はこれを予報するので、とても難しい。一方、気候とは「札幌」や「沖縄」と聞いて、「寒そう」とか、「暖かそう」というイメージだ。気候は大気の平均状態なので、緯度や海抜高度、海からの距離、大気組成などの要因で決まる。これらの要因がわかれば、気候はある程度予想できる。つまり、2100年1月1日の天気は予想できなくても、2100年1月の平均的な気候は予想できるのだ。

異常気象は多くなったのか?

猛暑日が多くなった?

気象庁は、過去30年間に観測されなかった気温や降水量を観測すると「異常気象」と表現している。しかし、多くの人はもっと頻繁に「異常気象」が起こっていると感じているのではないだろうか? これは異常気象が地域や年平均、月平均など、さまざまな30年間に1回が定義できるからだ。例えば、東京の8月の月平均気温が異常に高いと「東京で猛暑」と話題になる。現在の情報化社会では、日本あるいは世界各地で観測された異常気象のニュースが届く。気候には変動性が内在しており、異常気象(気候のゆらぎ)が過去にも発生していたことは歴史上の事実である。近年、異常気象が多くなったのか、あるいはそれが人間活動の影響なのかを判断するには、もう少し長い期間の観測が必要である。

不確実性をどうとらえるか?

天気予報を賢く使う

不確実性は、天気予報でも気候予報でも同じ。気象教育で不確実性を解説していると、不確実性があるなら、天気予報も気候予報も意味がないと考える人がいる。本当にそうだろうか? 降水確率50%の予報が出ているとき、あなたは傘を持って外出するだろうか? 傘を持って外出し、使わないで帰宅することも、雨に濡れずに済むことも、2分の1の確率だ。どちらが賢明だろう。オゾン層の破壊に関する研究でノーベル化学賞を受賞したローランド博士は、「科学を発展させて、充分な精度で予報ができるようになったとして、予報が正しいことが証明されるのを待っているだけなら、その科学にどのような意味があるのだろうか?」と述べている。「転ばぬ先の杖」や「石橋を叩いて渡る」などを思い出す。

私たちの選択と将来予測

地球温暖化と気候変動

2000年前後の10年間は、道路交通に起因した大気汚染の低減を研究していた。はじめに、交通シミュレーションで道路交通を予測し、排出される汚染物質を推定する。その結果を気象シミュレーションに入力し、大気汚染の状況を予測する。交通シミュレーションと気象シミュレーションは、原理は同じだが、その使い方はかなり違う。その理由は、交通シミュレーションは、予測結果を発表すると人間の行動パターンが変化して、予測結果が外れることがあるからだ。例えば、渋滞予測を見て出発時間を変更すると、多くの人が同じように変更していて、結局渋滞に巻き込まれたことがあるだろう。それに対して、天気は発表された天気予報によって変化することはない。
人間活動を考慮した気候予報は、私たちの行動によって変化する。地球が暖まっていることは、氷河の後退や北極海の海氷表面積の縮小から明らかだ。その原因は、人間活動による二酸化炭素の排出である可能性が高い。その情報をあなたはどう使うのか? 未来の地球環境は、私たちの選択、意思決定にかかっているのだ。

・坪田先生HP Meteorological Laboratory
~科研費による研究課題~
・2016年度 基盤研究(C) 研究課題番号:16K01031
 「持続可能性(Sustainability)に関するSTEM教材の開発と国際比較」
・2013〜2015年度/研究課題番号:25350263
 「気候リテラシー育成のためのカリキュラム開発とその国際比較」
・2010〜2012年度/研究課題番号:22500820
 「理科における気候変動教育のための学習モジュールの開発とその国際比較」
・2007〜2009年度/研究課題番号:19500757
 「大気環境情報システムと科学リテラシーを育成するための学習モジュールの開発」

〜イベント情報〜
高校生のための環境科学講座「持続可能性と再生可能エネルギー」
日時:2016年8月7日(日)
場所:桜美林大学町田キャンパス理化学館