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No.5リベラルアーツ学群 阿部温子先生(専門:国際関係論、移民研究)
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人の移動と政治社会

[2015年11月30日掲載]
移民研究と一口に言ってもその対象は非常に広い範囲に及び、その属性もさまざまだが、私の最近の研究テーマは外国人家事労働者についてである。日本は欧米諸国のみならず東アジアの中でも例外的に、外国人家事労働者の受け入れに関して消極的だったが、現政権の経済政策の一環としてこれまでの政策を大きく転換することになった。その意味で日本が今後とろうとしている政策には、先行事例および先行研究が豊富にあるということだ。そしてそれらが示唆するものは、日本の政策転換には大きな課題が待ち構えているのではないかということである。
外国人家事労働者は、1.家事労働者であること、2.外国人であること、3.(そのほとんどが)女性であること、に由来する複層的な脆弱性を抱えているが、そのような構造的弱者を作り出す一方で、彼(女)らの権利保護の仕組みを整備し、実践していくことが急務となる。

脆弱性の由来

1.家事労働の労働分野内での特殊性

・家庭という他者の目に触れない孤立した中での労働になる。
・労働時間が長くなりやすい。
・仕事内容が従来無償で行われていた。
これらの事情から、家事労働は、さまざまな国において労働法の規制対象外になることがある。これは労働者としての権利が認められていないことを意味している。

2.外国人であることによる特殊性

・外国人であること自体が差別的待遇を引き出してしまうことがある。
・外国人家事労働者を積極的に導入している香港やシンガポールでは、家事労働者が自国の市民である場合(数は少ない)と異なり、外国人労働者に対しては雇用主の住居に住み込むことを義務づけている。

3.女性であることによる特殊性

・女性であるがゆえに賃金が低く抑えられる。
・性的虐待を含め、身体的・精神的暴力の被害を雇用主から受ける。
これらの脆弱性が三重に重ねあわされている結果、外国人家事労働者に対する構造的な差別、賃金未払いや長時間労働の常態化、人権侵害といった問題が指摘されている。

政治的課題:私たちはどのような社会をつくりたいのか

こうした問題を未然に防ぐには、人種差別の禁止を法で定める、賃金や労働時間など労働規制の適用といった法整備が必要不可欠である。しかし現在の政策転換は、出発点から異なる方向を向いているようだ。そもそも外国人家事労働者の入国・滞在を促進する理由は、「女性の活用」にある。他国の事例においても、外国人家事労働者導入政策は自国内の女性の就労促進のためにとられてきたものである。しかし、この結果生じているのは、家事労働に対する社会的にも経済的にも低い評価の固定であり、性別分業の固定化だ。男女雇用機会均等法施行から30年がたち、ワークライフバランスが奨励されてきている一方で、従来型の偏見や女性差別が根強く残っている中、この政策は「家事は無償もしくは低賃金労働であり、それを担うのは社会階層の低い女性である」という定式を日本においても強化する恐れがある。
他方、現在日本で進められている政策は、地域を限定しての就労許可になる。政府の方針を受けて、家事サービスの大手企業が外国人を雇用する計画を発表している。国内人と同等の待遇および労働者としての権利が保障されることがまずは求められる。