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「教員を目指す君へ」

[2017年11月30日掲載]
千葉県公立高校の英語教員を経て、1987年から日本の政府事業である JETプログラム の導入に従事し、日本の英語教育の充実に尽力。その後、スイス・ヴォー州レザン市の国際全寮制高校の校長に就任するなど、教育学研究と実践に取り組んできた吉田恒先生に、「教職の何たるか」を伺いました。

1. 変わりゆく教員のニーズ

教職実践演習の授業風景(2017年10月5日)

今日は教職課程についてお聞きしたいと思います。

吉田先生 まず、教職課程はわれわれが学生だった時代とずいぶん様変わりしました。日本社会が変化して保護者も変化した。そして、子どもたちも変わってきたという点が背景にあります。

どのように変化しているのでしょうか?

吉田先生 昔の教職志望者は、自分が受け持つ教科の勉強をしっかりやり、教員採用試験を受けて合格すれば良かったわけです。今はもう教科の力だけでは間に合わない。

間に合わないとは?

吉田先生 例えば、介護体験や特別支援学校での体験実習といった社会的な体験がより強く求められるようになりました。他にも心理学を土台とするカウンセリング系統の知識も求められます。ちょっと多すぎるなと思うほどです。
大学で英語を4年間勉強して教員になった私たち世代のグループと、現在のようにいろんな社会体験をしながら教職に入ってくるグループ。これはそれぞれの時代、社会が要求した結果だと思います。昔のような一元化した価値観だけで教育ができなくなってきた。ただ、世の中が変わったからと言って、今の大学生たちが自分の教科の勉強にかける時間が少なくなっている点、これは少し気になります。

それは現場からの影響が出ているんでしょうか?

吉田先生 学校での教育実践がうまくいかなくなってきた。そこで教職志望者が必修で学ぶことや体験することが増えた。プラス面とマイナス面があります。僕らの世代は、生徒に対して教育学的アプローチから接するというテクニックを、学校現場で覚えるしかなかった。

今は学生の段階でそのテクニックを学ぶのですか?

吉田先生 そうです。できるだけ教育現場の実態に触れることを通して準備するということ。他にもいろんなものをバランスよく学びます。昔のように中等教育であれば教科という一点だけに集中していた世代と、今のように実際の準備やボランティア活動などを経て教員になる世代。両方にプラスとマイナスの面があります。
でも、世代の違いに関わらず大事なのは、教員になった後です。日々、自分の教科指導や学級経営を研究して改善していく。これができないとどこかで壁にぶつかり、豊かな教職人生の形成につながりません。

2. 現代の教員に求められる資質

吉田先生が以前務めていた学校のあるスイス・レザン市の風景

「研究して改善」というのはどういうことですか?

吉田先生 忙しく日々を過ごしていると、いずれ授業のやり方がうまくいかなくなり、問題が出てきます。中学生も高校生も結構、根源的な質問をしてくる。「どうして英語を勉強しなければいけないのか」とか。これに対して「文科省が言っているから」とは言えない。なぜ必要なのか、なぜ外国語をやるのか、なぜ外国語の中でも英語をやるのか。
こういった質問に丁寧に答えられるように、自分なりに研究や思考を積み重ねていかなくてはいけません。教職人生の中で研究を積み重ねていけば、自分を支えてくれる自信が確実についてくる。

難しいですね。

吉田先生 社会が複雑になってきましたからね。生徒たちも多様な価値観や課題を持っている。その分、教員としては多様な視点が必要になる。単一の視点だと、思考が広がっていかないし、生徒のガイダンスは思うようにいきません。多様な視点を持ち、悩みながらもより良く支援する必要があります。

「こういう道もあるんだよ」と教えてくれるような、そういう人がこれからの教育者に求められるのでしょうか?

吉田先生 求められると思います。歩んでいく人生に、これが正解だっていうことはないわけですから。子供たちはまだ世の中のことを何も知らないわけです。可能性が山ほどあります。

3. 学生たちに求めたい。「『違う』を理解する」ために「自分の成長に夢中になれ」

ここまでお話を伺って、教員に求められるのは「多様な視点」を持つために経験を積むことと、そのために「自分から動く力」だと感じました。

吉田先生 そうですね。私はもっとわかりやすく、学生に「自分自身の成長にまず夢中になってくれ」と言います。教員は人に教える仕事です。でも、「生徒たちは毎日あなたの姿を見るから、教える前にあなたがちゃんと成長しないといけない」と。成長しているという実感がそれぞれの自信となります。それぞれが他者とは違う魅力を持つということになります。
ついでに言えば、私は気になることがあって、今の学生たちは良い子がいっぱいいるのですが、みんな本当に狭い自分の空間にだけ閉じこもっています。親しい友人や家族との世界の中だけで生きている。意見が「違う」、あるいは肌の色が「違う」いろんな人たちと、この社会を構成しているという自覚がほとんどない。特に教員になるグループは、しっかり人間社会のことを認識し、それを生徒たちに授業の中でも生活の中でも伝えられるようになってほしいんです。

英語科教育法Ⅱ-2017年1月の最終授業を終えて

吉田先生 もっと言うと、社会の多様性を理解し、「違う」ということの良さを伝えられる教員ですね。

例を挙げていただけますか?

吉田先生 日本もグローバル社会の一員ですから、いろんな人が暮らしています。桜美林大学にも、いろんな国から学生が来ていますよね。いろんな国と言わず、日本のいろんな地域からも来ています。都会から来ている学生もいれば、本当に田舎から来ている学生もいる。それぞれの背景が全く違うわけです。
この「違う」ということをもっと根幹において、人はそれぞれみんな「違う」んだ、ということを理解できて、その上で目の前の生徒に教えていけるようになってほしいと思います。

当たり前のように聞こえますが、それができていないということでしょうか?

吉田先生 はい。これができればね、「いじめ」だとか他者の前で自分の意見を言えないなどということは、完全にとは言いませんが、ぐっと減少しますよ。特に日本人の場合は、自分や自分の仲間と違っている人をすぐにいじめたがる。これは個人の意見もそうです。大勢と「違う」考えを持っているとすぐにたたかれるでしょう。

自分と「違う」ものを遠ざけようとしてしまうということですね。

吉田先生 日本はガラパゴス化して発展しただけに、多様性が出てこない。国内には一元化した価値観がある。で、みんな同じようにそれを信じて人生を送り、死んでいくんです。ある「正解」に従って人生を生きている。でも、海外に出た人は楽しかったって言う。なぜでしょうか?

多様性があるからでしょうか?

吉田先生 そうです。視野がグンと広がってきて、自分自身の人生を考えるようになるからです。多様性を信じる教員がもっと増えてくれば、子どもたちも変わり、日本の社会は少しずつ変わっていくと思います。

では、この「違う」ということについて、どう教えるのでしょうか?

吉田先生 (筆箱を持ちながら)例えばこれでしょうか。私が教壇に立っていて、学生はその反対側に座っています。そこで「これ(筆箱)はそちらから見るとどういう風に見えますか?」と問う。今みんなで同じ物を見ているけれど、みんな少しずつ「違う」見え方をしている。見る角度か違うから。
その「違う」を言語化して、言葉でやり取りをしない限りは、それぞれの「違う」はお互いに分かりませんよね?

はい。

吉田先生 「私にはこんな風に見えるよ」「おれにはこんな風に見える」と、そうしてやっと、「なるほど」となる。今度は、目には見えないもの、概念であるとか自身の意見について。
例えば、「桜美林大学の強さは何だと思いますか?」と聞く。それぞれの考える「桜美林大学の強さ」も、筆箱の見え方と同じようにそれぞれ「違う」わけだから、これも主体的に言語化して、意思疎通をしない限りは分からない。目に見える物体ではないので、なお分かりにくい。この過程を経て、「違う」ということの本題に入るんです。

答えを引き出す技術ですね。

吉田先生 こうした問いに「正解」はないわけですが、それでも自分の見え方や考えを答えることはできるんです。こうやって彼らの「違う」を引き出すことで、学生も徐々に自信を持ってきます。そうして次の次元の新しいやり取りが生まれます。

そして、また議論が深まるというわけですか。

吉田先生 はい。小学校の先生は、こういう技術が抜群にうまいですね。だから、先生の引き出し方も大事な力だと思います。大学の教員も、専門以外にもっとこういうことを勉強しなくてはいけませんね。

吉田恒先生プロフィール

現在:桜美林大学教職センター・リベラルアーツ学群教授

専攻領域:教育行政学(Educational Administration)及び国際教育、英語教育

略歴:千葉県公立高等学校教員(英語)としてキャリアをスタート。文部省派遣教員としてイギリス・
エセックス大学の「言語・応用言語学研究科」にて英語教授法を研究。1987年4月から「自治体国際化協会」指導課長として日本の政府事業「JETプログラム」の導入。その後、アメリカ・ペンシルベニア州立大学大学院の「教育行政学研究科」へ留学(修士)。修了後、スイス・ヴォー州レザン市にて国際全寮制高校のHeadmaster(1992年6月から2001年8月まで)として、国際教育の実践に取り組む。2001年9月1日から桜美林大学に奉職、現在に至る。2002年8月にスイス・レザン市のSocial Honor Memberに認定される。現在、Swiss Group of International Schools正規会員校の日本アドバイザー。また、スイス留学サポートの専門家と共に「スイス国際教育研究会」を開催している。