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世界遺産「サンチャゴ巡礼道」を歩く

[2016年5月31日掲載]
突然だが、あなたは「サンチャゴ巡礼道」を知っているだろうか。巡礼と聞くと、日本では四国のお遍路が思い浮かぶ。点在する霊場を巡る旅。サンチャゴ巡礼とは、いわばこのお遍路のスペイン版だ。
キリスト教三大巡礼地の一つとされるこの道に、年間20万もの人々が挑む。その20万の中に、この冬、桜美林の大学生10人が含まれた。
桜美林大学キリスト教センターが主催した「世界遺産『サンチャゴ巡礼道』を歩く」。本学特任教授・桃井和馬氏に率いられた10人の学生は、約3週間をかけて350kmを踏破した。これは桜美林大学から名古屋までの距離に相当する。

歩いたのは「フランス人の道」というルート。文字通り、フランスから伸びるルートである。スペインとフランスの国境にそびえるピレネー山脈を攻略し進む。
このピレネー山脈がくせ者で、この道最大の難関とされる。冒険を始めた勇者がいきなり魔王と戦うようなものである。その過酷さに、この山で行方不明になる巡礼者もいる。
そんな山に挑んだ一行。そして事件が……。
メンバーのうち2人がその日のゴールを目前にダウンしたのである。なんとか全員で無事に宿にたどりついたが、このいきなりの事態に皆が気を引き締め直した。ちなみにダウンした2人のうち1人は引率の桃井先生。「油断していた」というのがご自身の反省の弁である。

最大の難関を乗り越えた一行は、その後の行程を難なく進んでいく。最初に魔王を倒したのである。「その後のスライムなど問題ではない」なんて思っていた。しかし、落とし穴は思わぬところに潜んでいるものだ。インフルエンザウイルスのまん延である。気づいた時にはもう手遅れ。病院に飛び込んだ一行に医者が一言。「ああ、もう全員感染しているね(笑)」。
対処法は、とにかく栄養と睡眠を取り、発症を抑えること。それでもウイルスは容赦なく彼らを襲い、最終的に4人が発症。バス移動となった。

まだ、ある。
集団生活において避けて通れない道、けんかである。少し前までお互い何も知らなかった者同士が、異国の地で、毎日朝から晩まで歩き通しではストレスもたまる。ささいなことが火種になって、グループ内に不協和音が生じてしまう。余裕のなさがいかに人間を弱く、内向きにしてしまうのか。これはメンバー全員が身をもって知ったと思う。
途中、現地でたまたま知り合ったスペイン人の青年がわれわれの様子を見るに見かねて「チーム対抗で料理対決をしてみれば」とアドバイスをしてくれた。彼は以前、ボーイスカウトのような仕事をしていて、グループ内の問題解決方法について知識が豊富だった。この提案が功を奏し、楽しいひとときとおいしい夕食を全員で分かち合ったことで心にゆとりが生まれ、この危機を乗り越えることができた。

この旅の中で桃井先生が発した「自分の周りを平和にできない人間が、世界平和を語る資格はない」という言葉が重く感じられる。そんな瞬間が多くあった旅だった。
とまあ、こんな珍道中ではあったが、全員無事に帰国しており、今はそれぞれの道を歩み始めている。

実はこの旅、日程の都合でゴールとなるサンチャゴ・デ・コンポステーラにはたどり着いていない。全行程の半分ほどまで進んだところで旅は終わっている。
志半ばで帰国したメンバー。いつかまた挑戦するという者も、今回が最初で最後だという者も、共通して皆「行って良かった」と言う。3週間に及ぶ集団生活、濃厚な異文化に触れ、それぞれがかけがえのない体験をしたことがその理由だろう。

どうだろうか。いつかあなたも巡礼の旅を。きっと、とてつもない疲労感と、何にも代えがたい充実した日々があなたを迎えてくれるだろう。学生記者:本田悠喜